いろいろ履いて気づいた、私の「いつもの一足」|ジャランスリワヤ98651

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98651と箱

昼休みのランチ、新しい味を求めていろいろな店を開拓してみたものの、結局いつもの定食屋がいちばん落ち着くと気づいた─そんな経験はないでしょうか。

財布に優しい値段でしょうか。それとも、適度な喧騒のある雰囲気?

ちょうどいいボリュームかもしれません。

理由はひとつではないけれど、要するに「今の自分」にちょうど合っていた、ということだと思います。

私は最近、革靴で同じような経験をしました。

この記事を書いている人

くまを

元アパレル店員 → 現役商社営業マン

神戸出身・40代の専門商社営業。元アパレル店員。革靴が好きで、今までに100足以上を購入してきました。予算に限りのあるビジネスマンに等身大の情報を発信しています。

くまを

目次

はじまりは、光らない5,000円の靴

話は約10年前にさかのぼります。私が革靴にのめりこんだきっかけは、勤めていた会社の倒産でした。

倒産するまでの私は、靴流通センターで買った5,000円ほどの合皮の靴を、手入れもせずに週5日履き潰していました。靴とは「すり減ったら買い替える消耗品」で、それ以上でも以下でもありませんでした。

当然かかとはすり減って歩きづらく、甲はクラックだらけ。おまけに毎日同じ靴を履くので、靴も足もどんどん臭ってきます。

「革靴ってくさくなるから履きたくないんだよね~」

そんな見当違いの思い込みを抱えていました。

ある日会社が倒産し、私は転職活動を余儀なくされます。当時の転職市場は冷え込んでいて、面接を受けても受けても内定は出ません。

何か変えられることはないかと考えて思い当たったのが、「せめて足元くらいはきちんとしていこう」でした。

街ゆくビジネスマンの中には、磨き上げた靴にびしっとスーツで決めた、いかにも「仕事ができるマン」がいます。あの足元が、当時の私の目には文字通り、まぶしく映っていました。

幸いというべきか、時間だけはたっぷりあります。生まれて初めて靴クリームを買い、ネットでノウハウを下調べして、くたびれた靴にすり込んでいきました。

ところが、まったく光りません。塗っても塗っても艶は出ず、クリームが厚くたまってゴワゴワになっていくばかり。玄関先にしゃがみこんで数時間、さすがの私もおかしいと気づきます。

「もしかして、安い靴って磨いてもだめなのか……?」

スマホで調べ直して、ようやく知りました。ネットでピカピカに磨き上げられている靴は、どれも本革でできた由緒あるブランドのものだったのです。合皮は磨いても光りません。私は数時間かけて、光らない靴を磨いていたわけです。

ジャランスリワヤは、はじめての本格革靴

では、本物の革靴とはどういうものなのか。

こうと決めたら調べ尽くさないと気が済まない性格です。失業中の有り余る時間を注ぎ込み、初心者向けの本格革靴を調べていくうちに、一つのブランドに行き当たりました。

ジャランスリワヤ。各所で「初心者の1足目に最適」と薦められていたブランドでした。

きけば、英国仕込みの製法や高級なカーフレザーを使っていながら、価格は手の届く範囲に収まっているといいます。中でもおすすめは、飾りがなく汎用性の高いプレーントゥだという評判でした。

レビューを読み漁った数日後には、私はセレクトショップの売り場に立っていました。

売り場では、革靴に造詣の深い店員さんにアドバイスをもらいながら、試着を重ねました。そこで発覚したのが、サイズの思い違いです。私がこれまで履いてきたのは、靴ひもを結んだまま脱ぎ履きできるサイズの靴でした。本来は、足にしっかりフィットして、中で足が泳がないサイズが適正だと教わりました。磨き方どころか、履き方から間違っていたのです。

そうして選んだのは、評判どおりの黒のプレーントゥ、「98651」でした。値札は、それまでの靴の6足分。会計でカードを差し出す手は、正直、少し震えていました。無職の身で何をやっているんだ、という声が頭のどこかで鳴っていたのを覚えています。

98651全景

箱から出した98651は、艶やかで、硬くて、まだよそよそしい靴でした。この革が本当に自分の足に馴染む日が来るのか。半信半疑のまま、私は翌朝からそれを履いて歩き始めました。

エイジングの面白さを知り、沼にはまる

結論から言うと、まったく馴染みませんでした。

革は硬く、靴底は板のようで、歩いても曲がってくれない。履き慣れないジャストサイズですから、かかとも履き口もひどく締め付けられます。最初の1週間は、徒歩5分のコンビニに行くだけで、足が悲鳴を上げるような日々でした。

それでも、雨の日も風の日も履き続けました。かかとの靴擦れには絆創膏を貼り、また履く。靴6足分の値段を思えば、いまさら下駄箱に眠らせるわけにはいきません。

覚えたのは履き方だけではありません。脱いだらブラシでホコリを払う。ときどきクリームを入れて、革をよく揉み込んで柔らかくする。あの日、磨いても光らない靴を磨いていた男が、手入れを覚えたのです。そして今度の靴は、磨けば磨いただけ、ちゃんと光ってくれました。

その甲斐あって、半年ほどたつ頃には、98651は目に見えて足に馴染んできました。あれほど硬かった革が足の形に沿って曲がり、吸い付くようについてくる。甲には自分の歩き方どおりの履きジワが刻まれ、磨くたびに艶が深くなっていく。世界のどこにもない、私だけの一足に育っていくのがわかりました。エイジングという革靴いちばんの楽しみを、私はこの靴に教わったのです。

エイジングしたトウ

ただし、失敗もありました。当時はこの一足だけをひたすら履き続けていたので、早く馴染んだ代わりに、インソールの劣化も早かったのです。革靴は1日履いたら休ませるもの。そう学んだ私は、こう考えました。

休ませているあいだに履く靴が、もう一足いるな。

今思えば、これが沼の入り口でした。

100足以上を手に入れ、そして手放す

2足目に選んだのは、同じジャランスリワヤのストレートチップでした。98651と2足を交互に履き回すと、革靴の傷みは目に見えて減ります。夜にブラシをかける時間は、いつしかささやかな趣味になっていました。

こうなると、ほかのブランドも気になってきます。バーウィック、RAYMAR、リーガル、ヤンコ。手の届く価格帯から試しはじめた沼は、しかし、そこで止まってくれませんでした。

カルミナ、シェットランドフォックス、三陽山長、チャーチ、オールデン…。

だんだんと価格帯が上がっていくのと並行して、私はメルカリの使い方を覚えます。足に馴染むものだけを手元に残し、合わないものはすぐに手放す。

買っては履き、履いては売る。そうして手にした靴は、通算で100足を超えていました。

収穫もありました。これだけ履き比べると、自分の足の特徴がわかってきます。かかとが人より小さいこと。小指が当たりやすいこと。カタログの評判ではなく、自分の足を基準に靴を選べるようになったのは、この時期のいちばんの財産です。

やがて沼は、既成靴の頂点と呼ばれる領域に届きます。ジョンロブ、エドワードグリーン、ガジアーノ&ガーリング。手元に並ぶのは、スーツに合わせる端正なドレスシューズばかりになっていきました。

靴棚

そうして100足の出入りは、足に合う15足ほどに落ち着きました。整理された下駄箱は、われながら壮観でした。ただ、そこにあの98651の姿はありません。2足目のストレートチップも。ジャランスリワヤは、いつの間にかすべて手放していたのです。

手元の革靴が、どれも少し「よそ行き」になっていた

気づけば、休日に履ける靴が手元にありませんでした。

革靴にはまってからというもの、私はスニーカーをまったく履かなくなっていました。選択肢は、下駄箱に並んだ15足のドレスシューズしかありません。

平日の装いなら、これ以上ない布陣です。ところが、子供と公園に出かける、子供を送り迎えする、そんな休日の足元となると話は変わります。必死で磨き上げたドレスシューズで、公園になど行けたものではありません。

冒頭の定食屋でいえば、私は名店の常連になった代わりに、ふらっと入れる「いつもの店」を失っていました。

気軽に履けて、それでいて手を抜いた感じにもならない。ドレスにもカジュアルにも寄れる一足。そんな都合のいい靴があっただろうかと記憶をたどったとき、思い出したのが、あの98651でした。

ふたたびのジャランスリワヤ

98651は、今も売っていました。

それどころか、調べてみると「98651 Tokio」というモデルネームまでついています。10年前にはただの型番だった靴に、いつの間にか名前がついていた。長く売れ続けた定番だけがもらえる勲章のようなものでしょう。私が100足の回り道をしているあいだも、この靴は同じ場所で、同じ顔で売られ続けていたのです。

楽天のセールで、私は3足目の98651を注文しました。定価3万円台のこの靴が、セールで2万円台まで下がっていたのです。ジョンロブもエドワードグリーンも知ったうえで、私はこの靴に戻ってきたことになります。

届いた箱を開けると、そこには10年前と同じ靴がありました。艶やかで、硬くて、まだよそよそしい。あの日とまったく同じです。

新品の革靴

そして履き始めれば、待っていた試練も同じでした。履き慣らしのつもりで出かけた休日の散歩で、硬い履き口がかかとに食い込み、久しぶりの靴擦れで血がにじみます。40代になって、かかとに絆創膏を貼る羽目になるとは思いませんでした。

ただ、絆創膏を貼りながら、ふと気づいたことがあります。私のかかとには、昔からの硬いタコがあります。考えてみればこれは、10年前にあの1足目が作ったものでした。靴は3足目でも、足のほうはとっくに98651の形を覚えていた。手放したつもりで、手放していなかったのです。

購入から半年たった今、靴はすでに馴染みはじめています。1足目のときは数週間続いた靴擦れも、今回はほんの数日で終わりました。あの懐かしい硬さが思いのほか早く通り過ぎていったのは、やはり足がこの靴を覚えていたからでしょう。

98651 着画

休日に子供と公園へ行く日も、ジャケットで仕事に出る日も頼れる一足です。今度こそ、手放さずに育てていきます。

サイズ感や経年変化については、別記事で詳しくレビューしています。

いつもの定食屋が、やっぱりいちばん落ち着く

昼休みの定食屋の話に戻ります。

いろいろな店を巡ってわかったのは、「今の自分にちょうど合う」ことの価値でした。財布に優しく、構えなくてよく、それでいてきちんと満たされる。革靴でいえば、私にとってそれが98651 Tokioでした。

高い靴には、高い靴の世界があります。それは100足かけて確かめてきました。そのうえでなお、冠婚葬祭以外ならどこへでも履いていける汎用性と、セールを待たずとも手の届く価格。このバランスのよさが、「今の私」にはちょうどいいのです。

これから本格革靴を始める方に「最初の一足はどれがいい?」と聞かれたら、私は迷わずこの靴を答えます。

なにしろ、私が10年と100足を回り道して、ようやくたどり着いた「いつもの一足」です。

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この記事を書いた人

スーツについて勉強中、神戸出身・神戸在住の営業マン。
ドレス系のアパレルショップで働いていました。
無理なく、きちんと。ビジネススタイル 。
そんな等身大の装いを発信します。

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